鈴木 太郎のアメリカ便り No-1


アメリカ1番の人気車種はトラック

SCCJの皆さん、その後お元気でしょうか。鈴木太郎です。このたび、アメリカ便りと題してミシガンから小文を定期的にお送りすることになりました。どうぞよろしく。

自分の興味と専門分野の関係でやはり自動車関係の硬い話題が中心となると思いますが、時としてその他の話題にも触れるつもりです。私個人、それも住まいのあるミシガン東南部の視点からの話ですので独断と偏見が入ることがあるかもしれませんが、どうぞ気楽に読み捨ててください。

できれば皆さんと2方向のコミュニケーションを目指したいと思っています。ご意見、ご質問、ご批判など、何でも結構ですからフィードバックをお送りいただければありがたいと思います。

今回の第1回目はアメリカの市場で最近ついに販売台数が全体の過半数を占めるに至ったトラック・セグメントについてお話します。

ここで言うトラックとは軽トラックを指し、基本的にピックアップ(例:ダットサン・トラック)、バン(例:シボレー・アストロ)、そしてスポーツユティリティー(例:ジープ・チェロキー)の3つのタイプの総称です。

もともと商業用に作られ使われてきた車ですが、近年の特徴はこのタイプの車を個人が普段の足として使う例が断然多くなってきたという点で、おかげでここ10年の間に飛躍的に台数が増えました。

具体的に言うと1980年代の終わりに市場全体の30%程度だったものが90年台半ばには40%に成長、2001年にはとうとう50%を超え、定番の乗用車を抜いて一番ポピュラーな車種となりました。これから先もさらに増え続ける傾向にあると予想されています。ちなみにこちらの業界ではcarに対するtruckという言葉でふたつのカテゴリーを区別しています。

ピックアップトラックの一般の足としての人気は、もともとベーシックモデルが乗用車より安い価格設定であったため、ふところの軽い人達が買い始めたのがひとつのきっかけでした。この傾向はダットサン・トラックがアメリカで先鞭をつけた小型ピックアップの分野で特に顕著だったと思います。

そのうちに段々カッコいいという受け容れ方をされるようになったのでしょう。日常生活の中でいろいろなものを自分で運ぶ (中古で買った洗濯機、日曜大工の材木など) という典型的アメリカンライフスタイルに合っているのはもちろんですが、ちょっと男っぽいイメージも魅力の1部になっていると思われ、女性でも好んで乗っている人がかなりいます。販売台数が増えるにつれ安い価格という要素は薄れ、いろいろ豪華な装備品も付くようになり、はてはキャデラックやリンカーンのような高級車ブランドからも発売されるようになりました。

一方バンの人気は、1980年代初めにクライスラーが売り出したいわゆるミニバンが火付け役になったのは間違いありません。ミニバンは広い室内空間に加えて従来の商用車ベースのフルサイズバンより洗練された乗り心地と操安性、また取り回しも楽なことから特に子供のいる若い家族の間にあっという間に広がりました。非常に合理的な理由でそれまでの伝統的な乗用車ベースのステーションワゴンにとって代わったわけですが、顧客を失ったステーションワゴンは事実上消滅してしまいました。

あれから20年近くたった今、ミニバンの市場は落ち着いて一定の需要はあるのですが成長は止まっています。その理由のひとつとして母親の運転するミニバンに乗って育った世代が親となり、ミニバンを逆にカッコの良くない車として嫌う傾向があるためと言われています。「Soccer Mom's Vehicle」という表現が使われることがありますが、これは自分の子供たちやその友達をサッカーの練習に連れて行くといった昔風の家庭生活にどっぷり浸った母親たちが好んで使う車という意味合いがあって、現代の親はそのイメージに反発しているということなのでしょう。その背景には90年代の好景気のために、夫婦でバリバリ稼いで高収入を得るのが当たり前になった世相があると思います。

統計的には現在ピックアップのシェアが全体の20%をちょっと下回るところ、バンは10%をちょっと下回るレベルで、ちょっと意外な2つの人気の相対的な差を示しています。

これに対して第3のカテゴリーであるスポーツユティリティー(Sports Utility Vehicleを略してSUVと呼んでいます。ほかにSports Ute(Uteはユートと言う発音)いうくだけた呼び方もあります)は急成長をしており、軽トラック市場全般の伸びに大きく貢献しています。1991年から2001年までの10年間でシェアが7%から23%まで伸びました。

SUVのそもそもの起源は第2次大戦で使われたオリジナルのジープと言えます。4WDと高い地上高、短いホイールベースの特徴を生かして道のないところでも走れる車として戦場の足として活躍したのはご存知のとおりです。あの独特なスタイルは終戦直後の日本でもおなじみとなり、私も当時買ってもらったブリキの玩具がいまでも手元にあります。

余談ですが、Jeepという名前はGeneral Purpose (Vehicle)という恐らく軍隊が使っていたと思われる呼び名の頭文字をとってGPとなり、GPの発音をもじってJeepとなったという説を聞いたことがあります。

戦争が終わって平和な時代に入るとオフロードの機動性を生かして狩猟とか魚釣りなどのアウトドアレクリエーションに使われるようになり、これがスポーツユティリティーという呼び名の語源となったと想像されます。1960年頃のジープはCJシリーズと呼ばれていましたが、CJはCivilian Jeepの略で戦争用と区別する意図があったようです。

この頃から競合車の数も増えだしてシボレー・ブレーザー、フォード・ブロンコ、インターナショナル・スカウトなどのほかジープからもワゴネアが売り出され、オフロードよりロードユース中心、大型化、装備の充実化など通常の進化の道をたどるようになります。

一方イギリスでも第2次大戦前後からオースチン・ジプシー、ランドローバーといった車があったわけですが平和な時代になると農場とか広大なエステートを持つ人達の足となり、そのあとに出た豪華版のレンジローバーはオフロードよりむしろ街乗り用としてひとつのスタイルを確立するようになったのはご存知のとおりで、進化の過程はアメリカと同じ道を通ってきたといえます。

話をアメリカに戻して、いまのSUVの人気の理由として着座位置が高いので視界が良くまわりを見下ろせて気分が良い、座席の位置が高く乗り降りが容易、4WDによる低ミュー路面での機動性、ワゴンスタイルボディーの収容能力などが良くあげられています。一歩さがって見れば現在のSUVは昔のステーションワゴンの新しい形態と考えられ、要するにこの手の車がアメリカ人のライフスタイルに合っている事実を証明していると思います。

つまり、通勤や食料品の買い物のほか、子供たちをリトルリーグの野球試合につれていく、家の修理のため建築材料を買出しに行く、夏休みには家族でキャンプに行くといったどこでも見られる生活に必要な機能を備えているということです。ミニバンもほぼ同様の機能を備えているわけですが、イメージその他の理由でミニバンは頭打ちとなりSUVの人気が先行しているのは面白い現象です。

典型的な製品の通常進化の過程を考えると、人気が出て使用者のベースが広がるにつれ多様化がはじまるのは自然な事と言うべきでしょう。SUVの場合はまず乗用車やバンとの融合という形で現れ始めました。これがいわゆるCrossoverと呼ばれているもので、ビュイック・ランデブー, ポンティアック・アズテック, レキサス・RX300(トヨタ・ハリアー)などはその例です。これらの車は背が高く2ボックスの形をしていますが、ベースは乗用車や乗用のバンで、デザインは都会的、内装も普通の乗用車並みで2輪駆動さえも選べるようになっているなど、ラフなオフロードの使用は全く考慮されておらず、又買う人達もせいぜい整地されたキャンプ場に乗り入れる位しか考えていません。

SUVとピックアップのCrossoverとしては日本などでクルーキャブという呼び名で売られている2列シートのピックアップが該当します。風変わりな例は昨年発売になったシボレー・アバランチという車です。これはやはり2列シートの後方にオープンの荷台があるのですが車室と荷台の隔壁が取り外せるようになっていて、2列目のシートを折りたたんで荷台が拡大できるというアイディアです。

もうひとつの多様化はスズキがジムニーとエスクードで市場をひらいた小型SUVで、これは結果を見ればまさにコロンブスの卵なのですが、アメリカのメーカーの盲点をついたアイディア商品でした。その後トヨタRAV4やホンダCRVがつづき日本メーカーの独り占めでしたが、この1-2年でようやく他社も追いついてきました。

実は我が家でもエスクードの北米版シボレー・トラッカーを妻が使っており、日用品の買い物に便利、小型のため乗り降りや取り回しが楽などの点のほか、冬季に4WDが心強いという特長を高く評価しています。私たちの場合もオフロードで使う機会は皆無で、要するに典型的なSUVユーザーの1タイプです。

趣味的に車を見る場合、特にSCCJ諸兄の場合トラックは考慮の対象外という方が沢山おられるのではないでしょうか。私自身ももし1台だけしか選べないと言われれば迷わずスポーツカーをとりますし、実際に昔ミシガンでスポーツカー1台だけの生活(TR4、冬の通勤にも毎日使った)をしていた楽しい思い出もあります。

しかし日常生活の道具として考えるとSUVの機能性と今の人気に異論を唱えることは困難です。近い将来別の車種が取って代わる時代が来るかどうかは断言できませんが、従来のコンベンショナルな3ボックスのセダンが昔のようなシェアを取り戻す時がいつか来るかと聞かれれば、アメリカの場合はNOと答えるしかありません。ただし法規のような人為的な外力が作用した場合はこの限りではありませんが。

(この項終わり)

ミシガン州バーミングハム市のストリートシーン、2002年1月
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