鈴木 太郎のアメリカ便り No-12


ルート66とコルベット博物館の旅

SCCJの皆さん、こんにちは。

No.11島田副会長が数年前から練っておられた北米大陸横断ハイウエイ、ルート66を走破する計画をこのたびいよいよ実行に移されることになり、私もその一部を一緒に走らせていただくことにしました。

ルート66は一般にはシカゴが始点、ロスアンジェルス郊外のサンタモニカで太平洋にぶつかって終点と考えられていますが、島田さんの計画はそのルートを逆にサンタモニカ?シカゴの方向に走るものです。

1926年、アメリカ一般市民の間に浸透した自動車の普及を追うように開通したルート66は、1970年代に入ってフリーウェイが取って代わるまで合計5つの大陸横断ハイウエイのひとつとして、西部への人口大移動を助ける重要な役割を果たしました。現在は約2,600マイル(4,200キロ)の全長のうち部分的にその名残をとどめ、もっぱら旧道の脇を走るインターステート・フリーウェイ40号線にその役目を譲っています。

私自身は終りの部分をご一緒するべくミズーリ州スプリングフィールドで島田さん達と落ち合うこととし、その前にちょっと寄り道をしてとなりのケンタッキー州にあるコルベット博物館へ立ち寄るという計画を立てました。

6月6日、金曜日
どんより曇った空の下、ミシガン州バーミングハムの自宅をコルベットで出発。久しぶりにソロの長距離ドライブである。6月に入ったというのに肌寒く気温は摂氏15度以下。しかし自然は正直なもので、フリーウェイを走り出すとウインドシールドに羽虫が次々にぶつかってつぶれる様子はすっかり夏のものだ。

今日の目的地はケンタッキー州ボウリンググリーン。全行程フリーウェイドライビングで、先ず75号線を南下して、オハイオ州の最南端シンシナティから71号線に乗りケンタッキー州ルイビルまで、そこからさらに65号線でケンタッキー州西南部のボウリンググリーンに入るコースである。

シンシナティ手前のデイトンという町で給油をする。ここは航空史上に名を残したライト兄弟の生まれ故郷として、またライト・パターソン航空博物館でも知られているが、私自身がその昔エンジニアとして働き始めたとき最初の仕事で何度か出張した思い出の町でもある。その頃をなんとなく思い出させる景色がまだあって懐かしい。ちょうど昼時なので食事をしようと近くのレストランに入るが一杯で、順番待ちの人たちが行列をしている。近所の勤め人だけでなく家族連れもかなりいて、賑わっている。先を急ぐので待つのをあきらめ、さりとて他のレストランを探すのも時間がもったいない。またフリーウェイにもどり、結局走りながら持参の林檎とナッツを昼食の代わりとした。

ルイビルを過ぎた辺りでとうとうポツリポツリと降り出し、ボウリンググリーンに着く頃には本格的な雨となっていた。今日の走行距離は500.2マイル(805キロ)、走行時間は途中の小休止を含んでちょうど8時間。車載コンピューターによる平均燃費は31.0マイル/ガロン(13.2km/l)。車重1.5トンに近く排気量5.7リッターの重量級スポーツカーだが、この好燃費は6速で70mph走行時のエンジン回転1,600rpmと極端なトールギア、現代の正確な電子制御インジェクション、加えて大部分が定速クルージングの相乗効果のおかげである。

6月7日、土曜日
雨は夜の間かなりの勢いで降り続き雷鳴も聞こえたが、朝になるとさいわいやんでいた。博物館の開館時間8時に合わせてホテルをチェックアウトする。

この博物館は正式にはNational Corvette Museumといい、町外れのコルベット専用生産工場のすぐとなりにある。ポルシェ博物館のように単一メークの博物館はいくつかあるが、ポルシェで言うなら例えば911に相当するシボレー・コルベットという単一車種に絞った博物館は世界的にも他に例がないのではなかろうか。

道順はウェブサイトで調べてあったのだが、目立つ看板など全くないので曲がり角を見逃してしまった。しかし迷い込んだのはこのあたりの典型的な田舎道と思われる曲がりくねった2車線の舗装路が農場を縫って続く道。土曜の朝早くとて交通量は皆無に近く、思わずその気になってギアシフトを繰り返して快い横Gを感じつつ結局20マイル以上も余計に走って楽しんでしまった。

コルベット博物館では、まず入り口のすぐそばに用意されたコルベットに乗ってきた人だけが停められる駐車スペースに感激。入場者のなかには子供連れよりも中年の夫婦が断然多いのが目を引く。コルベットは若い人達もさることながら、この年代の人たちにとっても憧れの車なのだ。

GM がサポートしている展示はとても充実しており、歴代の量産コルベットのほか何台かの実験試作車や60年半ばに全部で5台しか作られなかったレース用のGrand Sport、また衝突試験に使った車をそのまま展示してあるのはなかなか珍しい。

博物館のギフトショップで過去にチーフエンジニアをつとめたZora Arkus-DuntovとDave McLellanの伝記を買ってから今日の目的地、スプリングフィールドに向け走り出す。しばらく走ると天候がどんどん回復して、日がさしてきた。

180マイルほど走ったところでフリーウェイを降り、残りは一般道を行く。ほどなくミシシッピー川を越えてミズーリ州に入る。この辺では川の全長のほぼ中間となるが、川幅はすでにかなり広い。橋を渡るとそれまでの丘陵地帯から急に広々した平野となり、土の色が赤いのが特徴的である。このあたりミズーリ州東南部にはフリーウェイがなく、この60号という州道はこの地域を東西に走る幹線道路となっている。しばらく走ると平野からまた丘陵地帯に入る。Ozark Mountainと呼ばれる地域で、国有林が点在している。

デトロイト近辺に比べてこのあたりはガソリンが安い。レギュラーガソリンはデトロイトの1ガロン当たり$1.58(リッター当たり\49)程度に比べここでは$1.38(\42)と10%以上も違う。

一般道を走ること300マイル(480キロ)、ようやくスプリングフィールドに入り、待ち合わせ場所のルート66旧道に面したモテルに到着する。島田さん一行はすでに着いて待っていて下さった。この日の走行距離は480.3マイル(773キロ)、走行時間は途中の小休止を含み8時間、燃費は30.1マイル/ガロン(12.8km/l)と一般道の走行が半分以上にもかかわらず昨日との差は少なかった。

このモテルは多分1950年代からと思われる平屋建ての建物を使って昔の雰囲気をそのまま残しており、車も自分の部屋のすぐ前に駐車するようになっている。昔のヒッチコック映画「サイコ」に出てきたベイツ・モテルを思い出していただければお分かりと思う。部屋は小さく設備も現代の標準と比べると簡素であるが、それなりに味がある。なかなかの人気で、この日はほぼ全室が埋まっていたようだ。

6月8日、日曜日
明ければ文字通り雲ひとつない快晴。今日の目的地セントルイスまではまっすぐ行けば僅か200マイル(320キロ)なので朝はゆっくり出発する。島田さん一行は島田さんご夫妻と島田さんの妹さんご夫婦の4人。コルベットのトップを下ろし、先ず島田夫人を隣にお乗せして走り出す。

朝の気温は20度弱、風も弱く理想的なトップダウンドライビングの天候だ。途中ロラという町に古い車を展示しているデイーラーがあるとの島田さんの情報をもとに、フリーウェイを降りて探すが見つからずに結局諦める。

昼食をとったところはキューバという変わった名前の町。地図を見るとこのあたりは他にもレバノン、はてはジャパンなどという地名まである。セントルイスまであと100マイル程度で、このままフリーウェイで行ってもあまり面白くなそうだ。地図で見るとすぐそばにMark Twain National Forestと呼ばれる国有林がある。有名なトム・ソーヤーの話を書いた著者の名前にちなんでつけたものであるが、そこを通って行こうと言うことになる。

この寄り道は大成功だった。林の中なので緑に萌える木々が道のすぐ脇まで張り出しており、フリーウェイでは絶対に味わえない雰囲気である。それに加えて道は曲がりくねっており、sweeperという表現がふさわしいゆるいカーブが連続している。しばらくは40mphの速度制限を守っておとなしく走っていたがやはりいかにも勿体無い。交通量も極端に少ないことに勇気付けられレーダー探知機をたよりにスピードを上げる。気がつくと60-65mphで気持ちよく走っていた。この林の道は70マイルほど続いたが、後半は地形が変わってカーブはもっときつくなり、最後は左右のカーブと一緒にかなり急な坂が頻繁に現れる。走りながらvertical curveというピエロ・タルッフィが使った言葉を思い出していた。

驚くことに(失礼)島田さんのフルサイズセダン、リンカーン・タウンカーは快適にとばすコルベットにほとんど遅れることなくぴったり付いてくる。さすがに終わりの急坂ときついカーブのセクションでは時々引き離したが、そのサイズと車重、乗り心地重視のサスペンションセッティング、3速オートマティックなど各種悪条件を考えると実にすばらしいドライビングであった。後から聞くと同乗の女性お二人はかなりエキサイティングな経験をされたらしい。

フリーウェイ経由では16マイルのところをその4倍以上の寄り道をしてしまったのだが、このドライビングは今回の旅行のハイライトのひとつとなった。あとは日曜夕方の比較的空いたフリーウェイ経由でセントルイスに入りダウンタウンのホテルに到着。この日の走行距離は280.8マイル(450キロ)、走行時間は7.5時間、平均燃費は29.8マイル/ガロン(12.7km/l)。走行条件を考えると相変わらずかなり良い。

6月9日、火曜日
今日は休息日で、一日中コルベットのエンジンをかけることはなかった。島田さんのもう一人の妹さんが東京から着かれるので空港までお迎えに行く。

一休みして昼食の後、セントルイス市内の名所でホテルのすぐ前にあるゲートウェイ・アーチの頂上に登る。エレベータ−と言っても遊園地の電車のような乗り物で、アーチの曲線に沿って登るのでひとつに5人が窮屈に座る車両を何台も連結してある。このゲートウェイという名前は、その昔西部開拓が始まったときセントルイスがその拠点となった史実に由来している。

夜はホテルから歩いて行けるという単純な理由でレストランガイドから選んだイタリアン・レストランへ行ったのだが、これがなかなか良くて皆さんに大好評。昨日のドライブコースの選択、今日のレストランの選択と幸運が続いた。

6月10日、火曜日
朝7時半、朝食をとる暇を惜しんでミシガンの我家に向けてセントルイスを出発する。島田さんをはじめ皆さんとは昨夜お別れのご挨拶をしてある。ミシガンとは1時間の時差があるので、7時半は我家の8時半に相当する。折から雷をともなった豪雨の悪天候である。雨の中を走りながら車載コンピューターで瞬間燃費をチェックすると、26~27マイル/ガロンと今までよりかなり悪い。あとで雨がやむと途端に30を越えた。どうやら幅の広いタイヤが路面に溜まった雨を押しのける抵抗が原因ではないかと推察する。格納式ヘッドライトを上げていたのでその空気抵抗も多少影響していたかもしれない。

今日は再び全行程フリーウェイのコースである。55号線でシカゴの手前まで北上し、80号線に乗ってインディアナ州の北西の角を掠め、94号線に乗り換えてミシガンを横断しデトロイト方面に向かう。

セントルイスからミシシッピー川を再度渡るとイリノイ州である。ここまで来るといわゆるアメリカ中西部のど真ん中。東のアパラチア山脈から西はロッキー山脈まで1,200マイル(1,900キロ)も大平野がつづいている。景色も農場の連続である。途中、いい具合に古びた納屋の前に50年代のシボレー・ピックアップトラックが佇んだ絵のような光景に出くわす。

しばらく走ると雨がやむ。雨雲を追い越して先へ出たのである。1時間ほど走って軽い朝食のため一時休止したあとは平坦な道を文字通り淡々と行く。一昨日のエキサイティングなドライブが遠い過去のことのように思われる。

シカゴの南部からインディアナ州ゲリーのあたりは交通量といいドライブマナーといい大都会を思い出させるに十分な環境だった。インディアナ州ミシガンシティーという州境の町で最後の給油と昼食のため小休止。ミシガンに入ると制限速度がそれまでの65mphから70mphに上がる。あとは慣れた道をひたすら走って夕方予定通りに我家に帰着。週末を留守にしたので庭の芝生が随分と伸びていて見苦しい。

今日はこの旅行中一番長い569.5マイル(911キロ)を走り、平均燃費も最高の31.3マイル/ガロン(13.3km/l)を記録。4日間の全走行距離は1,830.3マイル(2,947キロ)、総平均燃費は30.7マイル/ガロン(13.1km/l)であった。

スプリングフィールド出発前にタンクを満たす。

フリーウェイのレストエリアで地図を確認。

島田さん一行の皆さん。

セントルイスの名所、ゲートウェイアーチ。

アーチ頂上の小さな展望窓から景色を楽しむ。

アーチから見下ろすミシシッピー河。

(この項終わり)

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