鈴木 太郎のアメリカ便り No-18


2008年デトロイトオートショウ

SCCJの皆さん、こんにちは。#448鈴木太郎です。長い間中断していたアメリカ便りを再開したいと思います。またよろしくお付き合いください。

毎年行われるノースアメリカン・インターナショナル・オートショウ、通称デトロイトオートショウが今年も1月半ばにデトロイト・ダウンタウンで
開催されました。ショウを見た私の印象から現在のアメリカ自動車界の雰囲気を感じ取っていただければ幸いです。
また3年前の2005年デトロイトショウの報告と対比してお読みいただくのも興味深いのではないかと思います。

“Color This Show Green and Brawn”、これはショウ第一日の翌朝地元の新聞に載った記事の見出しです。
一見「緑色と茶色(?)に彩られたショウ」と読めるのですが、ちょっとひねってあるのでご説明します。

このbrawnという綴りは誤りではなく、筋骨を意味する言葉です。これを一文字違いのbrown、緑に対する茶色という言葉にかけて使っていて、
見出しの意味は「緑(環境)と筋骨(トラック)の相反する二つのテーマが混在したオートショウ」といったところです。

実際に自分の足で会場を歩いて見てこの表現は的確であると思いました。このほかにもいくつか目立った傾向があって、
それらを含んだ全体の印象をまとめてみました。

1. ハイブリッド車
今回のショウで見る限り、いまアメリカのメーカーにもっとも人気があると言っても差し支えない技術分野のひとつが内燃機関と
電気モーターを併用したハイブリッドシステムと言えます。先日聞いたところでは某メーカーが苦しい財政状態に直面して
コストカットのため人材をどんどん減らすなか、ハイブリッド動力系の知識と経験のあるエンジニアだけは唯一の例外で、
いまでも積極的に雇っているそうです。
今回のショウに展示されたハイブリッド車の数を見ると、これは一社に限った傾向ではないと思われました。

ご存知のように車載のバッテリーを使って電気モーターで走る電気自動車の歴史は古く、これまで大小いくつものメーカーが
市販を試みましたが、バッテリーの限られた容量のために一回の充電で走れる距離は短く、ゴルフカートの領域を大きく抜け出す
ことが出来ずにいました。
1997年に日本で発売されたトヨタ・プリウスはこの問題をガソリンエンジンと電気モーター併用するハイブリッドシステムで解決し、
ガソリンエンジンの効率が低い運転領域を電力で補うほか、車両の慣性エネルギーをバッテリーに還元する回生ブレーキ、
低負荷運転時はエンジンの動力を駆動と発電に適宜配分、また停車時のエンジンカットオフなどの各種技術を使ってガソリン消費率を
改善したものです。

初代のプリウスは必ずしも輸出市場を念頭に設計されたものではなかったと思いますが、それにもかかわらず市街地走行時の
燃費の良さよりむしろ環境にやさしいという観点から注目され、特にアメリカでは社会的なステータスに敏感なハリウッドの
スター達が買い始めそれが一般大衆の注目するところとなりました。

現行の2代目プリウスは初代の実用車としての不満な点(室内空間の不足、絶対的な動力性能の不足、あまり評判の良くなかった
スタイリングなど)に手を加えて進化させたものですが、結果として2007年にはアメリカ市場で18万台を超える販売台数を記録、
ハイブリッド車の市場における位置づけをただの新奇な車から一気に主流商品に押し上げる功績をあげたと言えます。

昨年のデトロイトショウにゼネラルモーターズがシボレー・ヴォルトと呼ばれたハイブリッドのコンセプトカーを出品しました。
このハイブリッドシステムはプラグイン・タイプと呼ばれ、駐車時に家庭用交流電源を使ってバッテリーを充電し、走行時の
バッテリー使用頻度を高めてガソリン消費量を減らそうという考えです。今年のGMはプラグインシステム搭載の出品車の数を増やし、
またトヨタもプラグイン機能を備えたプリウスを出品しているので、近い将来にはこれがハイブリッドの主流となるのでしょう。

出品されていたハイブリッド車をアルファべット順に列挙してみました。名前の後に(p)と記されているものは市販車、それ以外は
コンセプトカーです。
(私が見過ごしたものもあるかもしれません、ご承知おきください)

BMW - X6
BYD ? Dual Mode
Fisker - Karma
Ford - Mercury Mariner (p)
GM - Chevrolet Tahoe/Siverado, Chevrolet Volt, Saturn Flextreme, Saturn Aura Greenline (p), Saturn Vue Greenline (p),
   GMC Yukon 2-mode
Mazda - Mazda 5 Rotary Hybrid
Honda - CR-Z,
Toyota ? Prius (p), Prius Plug-in, A-BAT,
Volvo - Recharge Concept
BYD(Build Your Dreamsの頭文字)は今回参考出品をしていた中国メーカー数社のうちのひとつ、またFiskerは正式名を
Fisker Coachbuildといいカリフォルニアにある会社です。創業者Henrik FiskerはアストンマーティンDB9のデザインを
担当した経歴を持つデンマーク生まれのデザイナーです。

これら小規模なメーカーがハイブリッド車を展示するのは、時代最先端の考えを持っていることをアピールする目的であろうと
思われます。

2. 燃料電池
酸素と水素の反応を利用して発電する燃料電池は内燃機関の排気ガスに相当する排出物が水蒸気なので地球の環境に悪影響が
ない究極の動力源とされています。
燃料電池の開発は何十年も前から続いており、当然技術レベルは大きな向上を遂げているわけですが、それにもかかわらず未だに
市販が可能なまでに価格が下がらないというのが実情です。

ホンダはその開発活動を積極的に公表してきたメーカーのひとつですが、今回のショウではFCX Clarityと名づけたセダンタイプの
車を「未来のゼロエミッション車が今現実に」という説明付で展示していました。ただ発売時期については何の表示もありませんでした。

GMは燃料電池の開発活動のパブリシティーに積極的なもうひとつのメーカーで、今回はキャデラック・プロヴォーク
(Cadillac Provoque)という名のクロスオーバーSUVタイプの実験車に載せて出品していました。ちなみにこの車は
プラットフォームを下に述べるSaab 9-4Xと共有しているので、燃料電池は当分無理としても車両自体は近い将来発売される可能性が
高いと思われます。

3. 代替燃料
石油資源が有限である事実が一般大衆の意識に入り込むきっかけとなったのは1970年代の第一次石油危機だったのでは
ないでしょうか。あれから30年以上たったいま原油の値段が1バレル100ドルを越え、アメリカではレギュラーガソリンの
小売価格1ガロン当たり3ドルが当たり前となった咋今、代替燃料の意義がようやく本気で理解されてきたように思います。

現在のところ代替燃料の代表格はエタノールですが、表向きにエタノール使用を一番積極的に推進しているのがGMです。
同社は今回のショウ開幕時の記者会見でイリノイ州にあるコスカタ社(Coscata Inc.)と共同でエタノール燃料製造技術の
開発を行うことを発表。2011年までに年間1億ガロンの製造能力を有して小売価格は1ガロン当たり1ドル以下と予想されて
います。
燃料の原料には木屑や切り草、はては家庭から出る生ごみまで利用できるとのふれこみです。

GMは現在E85(エタノール85%混合のガソリン)と純粋なガソリンの両方が使用可能なFlex Fuelと呼ばれるエンジンを
フルサイズSUVやピックアップを含むいくつかの車種に搭載して発売しており、今回のショウにもそれを強調するディスプレイが
目立ちました。
またGMの子会社サーブは9-4X BioPowerと名づけたクロスオーバーSUVタイプの実験車を展示しており、E85燃料を使って
4気筒ターボ2リッターから300馬力を絞り出すと言われています。

ところでオートショウに先立つGMの発表によれば、今年5月の第98回インディアナポリス500マイルレースのペースカーに
選ばれた2台のシボレーコルベットのうち1台を実験的に改造したE85コンセプトカーを走らせることに決定しました。
この決定もエタノール燃料に力を入れている同社の意気込みのあらわれと言えます。

今回の出品車のうちの異色はフェラーリのスタンド真中に展示されたF430スパイダーを改造してBio Fuelと名づけた実験車です。
高性能とイメージが売り物のこのメーカーも時代に取り残されない努力をしている、というメッセージを伝えたいのでしょう。

このほかの代替燃料としてはBMWがただ一社、水素燃料使用の7シリーズセダンを出品していました。

4. ディーゼルなどのエンジン技術
ディーゼルエンジン搭載車がヨーロッパでは圧倒的な人気を得ているのに対し、アメリカではいまだに珍しいという段階です。
商業用フルサイズトラックの分野では燃費の良さと強大な低速トルクがセリングポイントとなって街中で見かけることも
少なくありません。
これに対し乗用車やSUVのユーザーには未だに昔のうるさく臭いディーゼルのイメージが強く残っているに違いありません。
またディーゼル車の値段が高いことも障害のひとつになっています。

今年のショウにはアウディがミッドエンジンのスポーツカーR8に6リッターV12エンジンを載せてコンセプトカーとして
出品していました。
アウディはルマンプロトタイプクラスのレーサーにもディーゼルエンジンを載せて成功していますが、いずれもディーゼル
エンジンとスポーティーなイメージの違和感をなくそうとする努力のあらわれのように思われます。

メルセデスはハイブリッドには冷淡なのか出品車はなく、それよりもディーゼルの方が合理的ということを言いたいのか、
Bluetecと称したディーゼル排気浄化システムを発表していました。これは3種類の触媒コンバーターを縦列に連結して
微粒子フィルターと組み合わせた複雑なシステムで、これもこのショウで発表したGLKと呼ぶ小型クロスオーバーSUVに載せて
出品していました。

一方フォードからコンセプトカーとして出品されたFord Explorer Americaは現行のフルサイズSUVエクスプローラーの名前を
受け継いでおり、近い将来発売になる新型エクスプローラーのプロトタイプと見られていますが、この車のエンジンはフォードの
近い将来の傾向を示唆しているようです。展示された車のエンジンは4気筒2リッターの直噴ガソリンエンジンをターボ化したもの、
275馬力を発生すると発表されています。2リッターの排気量は従来の常識ではフルサイズSUVを動かすには不十分に見えますが、
フォードの考えは明らかに小排気量で燃費を稼ぎ、パワーが必要な時にはターボで過給という方向へ向かっており、私は個人的に
このアプローチに興味があるのでこれからの実績に注目していきたいと思います。

5. フルサイズトラック
過去20年以上アメリカ市場で単一車種販売台数1位の地位を占めてきたフォードのフルサイズピックアップトラックF-150とダッジの
競合車ラムの新型が発表され、今秋から2009年モデルとして発売されることになりました。他社の競合車種、シボレー・シルベラードと
トヨタ・タンドラは昨年モデルチェンジをすませています。

ご存知と思いますが、アメリカ市場におけるピックアップトラックはトラック本来の機能を生かした使われ方のほか、日常の足として
乗る人が沢山います。その魅力の一部が力強く筋骨逞しいイメージであることは疑いなく、冒頭に書いた新聞の見出しがbrawnと言う
言葉を使ったのはこれを意味しています。

個人が日常の足に使う場合が多いことから、新型車は最近の傾向に従って居住性、日常の利便性、乗り心地、車内のノイズレベル、
操縦安定性、乗員保護などの改善に力を入れています。いわゆるダブルキャブ、クルーキャブなどと呼ばれる4ドアの5−6人乗り
仕様はもはや当たり前となりました。

ダッジ・ラムはリジッドアクスルを5リンクで位置決めしコイルスプリングで吊ったリアサスペンションを新導入、乗り心地と
操縦性の改善を謳っています。また最近の傾向に従って鍵のかかる収納コンパートメントがふんだんに設けられています。

気になる燃費に関してはフォードが従来のモデルより向上していると言っていますが、将来より厳しくなる燃費規制を考えると
飛躍的な改善が必要で、フルサイズトラックはいま大きな曲がり角にきていると言えます。これにはメーカーだけでなく消費者の
意識も変える必要があるのではないかと思います。

6. 高性能車
Brawnの表現に該当するもうひとつの分野、高性能車は時代のムードをそのまま映したように活気がありませんでした。つい
数年前のデトロイトショウでは300−400馬力を誇る車が文字通り目白押し、500馬力を超えるものすら5本の指に余るほどあった
状況を考えると昼と夜の違いです。

事実上今年唯一の話題はシボレー・コルベットの高性能版、コルベットZR1です。誰かが最近機密保持が一番緩かった新型車と
呼んだこの車はここ数年来アメリカ自動車専門誌のスクープ欄をにぎわせており、ブルー・デヴィル(リック・ワゴナーGM会長の
出身校デューク大学体育会のニックネーム)やコルベットSSなどといった呼び名が憶測されてきたのですが、発表された正式名は
1980年代の高性能版コルベットから受け継いだZR1でした。

新型ZR1は現行版C6コルベットをベースにしていますが、最も大きな違いはエンジンで、ノーマルのコルベットと6.2リッターの
排気量は共有するものの細部に設計変更が施されスーパーチャージャーを装備、推定620馬力から時速200マイルの性能を得ています。
発売は今年の秋で、推定価格は約10万ドル。これによってZR1はシボレーの史上最速、最も高価な車となります。

10万ドルはもちろん安くはないのですが、同等の性能を持った競合車の値段は2倍以上もするので、価格で比べる限りZR1は競争相手の
いないユニークな位置付けとなります。

コストを抑えるためと思われますが、ボディーを基本的に現行のC6コルベットから流用しているので特別の車としての凄みが足りず、
特にインパネ周りをはじめとするインテリアは大人しすぎるという不満があるのは事実です。一方どのような状況下でも神経質さがなく
乗りやすい車であることが想像され、その気になれば毎日の通勤に使うことも十分に可能だろう思います。

ZR1のほかの高性能車は上記のアウディR8ディーゼル、中型キャデラックセダンの高性能版550 馬力のCTS-V、それに他のショウで
すでに発表済みのレクサスLF-Aコンバーチブル、ニッサン・スカイラインGT-Rなどにとどまりました。

2020年から発効する新しい燃費規制(CAFE値1ガロン当たり35マイル、現行の規制値は27.5マイル)のためにこれらの高性能車の存続は
諦めねばならないのではという懸念が一部に出てきています。その背景のひとつがキャデラック用新型V8エンジン開発プログラム中止の
GMの発表で、キャデラックは今後既存の3.6リッターV6を進化させて使う計画とのことです。高性能車の今後の活路は、すでにいくつかの
日本のメーカーが示しているようにハイブリッド技術に頼ることになるのかもしれません。

7. クロスオーバーの多様化
クロスオーバーという名称は10年ほど前から使われるようになり、はじめは乗用車の車台を流用したSUVのことを指していました。
第一代目のスバル・フォレスターはごく初期の例です。流用する乗用車の車台とはすなわちモノコックボディーの下回りを指し、
従来のトラックベースのフレーム付の車とは違う構造を意味します。
その後この名称は拡大解釈されて、いまではSUVに限られることなくいろいろな派生的コンセプトが現れてきています。

代表的な新種のクロスオーバーがコンセプトカーとしてこのショウで初公開されたBMWのX6です。BMWがスポーツ・アクティビティー・
クーペと呼ぶこの車はスタイリッシュで高性能なクーペと悪路踏破性の高いSUVを掛け合わせた車で、スロープを描いて下降する
ボディー後部はハッチバックとなって実用性を高めています。4駆の動力系には小排気量に直噴とターボを組み合わせたエンジンや
新世代のディーゼル、またハイブリッドも考慮されているなど技術的に濃い内容を持っていますが、実車を見た私は1970年代に
当時のアメリカンモーターズが造っていたイーグルという地上高の高い4駆乗用車のイメージを思い出さずにはいられませんでした。

一方トヨタはクロスオーバーセダンと称してヴェンザ(Venza)と名づけられた車を出品しました。アメリカ向けカムリをベースにしています。
セダンと言ってもハッチバックを備えた基本的に2ボックスの形状です。スタイリング、エンジニアリングともに北米トヨタが担当した
アメリカ専用車で今年の後半に売り出されるとのことです。はっきり言ってどこかで見たような車だと思ったら、レクサスRX-330(トヨタハリアー)
とほとんど変わらないと気づきました。
クロスオーバーセダンという名称はマーケティング担当者の言葉の遊びのような気がします。

3年前のデトロイトショウでホンダが発表・発売したリッジライン(Ridgeline)という車はオデッセイのプラットフォームを応用した
ピックアップトラックで、これもクロスオーバーの一種です。通常のピックアップと比べてセパレートフレームを持たない構造であること、
エンジンはV6のみ、などの理由でえアメリカ製の伝統的なトラックよりちょっと軟弱な印象ですが、それなりに独特な市場のニッチを
狙った車でした。

今年はトヨタから同じコンセプトのA-BATと名づけたトラックの試作車が出品されていました。北米向けカムリのプラットフォームがベースと
言われるこの車はリッジラインより少し小型で、ハイブリッドシステムが搭載されていること、キャビン後部の隔壁を外すと荷台が延長できる
などの特徴をそなえています。

中型SUVフォード・エクスプローラーはフォードの主流製品のひとつですが、今回フォード・エクスプローラー・アメリカとして出品された車は
近い将来の新型エクスプローラーを示唆していると見られています。特筆すべきはこの車が現行車のフレーム構造の代わりにモノコック構造と
なっていることで、このままで量産と仮定すると新型車はついにセパレートフレームを捨ててより軽量・高剛性のボディーを持つクロスオーバーと
なるわけです。出品されたコンセプトカーは後部にスライディングドアを持っていましたが、これが量産車に採用されるかどうか興味が
持たれるところです。

8. クーペの復活
今から15年ほど前までは2ドアクーペスタイルの車はアメリカ市場で確固たる地位を保っていました。キャデラック・エルドラドは代表的な
例ですし、マーキュリー・クーガー、シボレー・モンテカルロなども路上で結構良く見かけました。

その後、SUVやピックアップトラックの人気が上がり始めた頃と一致すると思いますが、各メーカーの製品ラインアップからクーペが
消え始めました。
多くのメーカーが現存の生産ラインをクーペからトラック用へ切り替えた事実がもたらした結果だと思います。

ただクーペは完全に消滅したわけではなく、10万ドルを大きく越える高級車は別としても現在ホンダ・アコード・クーペ、
トヨタ・ソラーラ(Solara‐カムリベースの北米専用車)、インフィニティ・G35・クーペ(北米仕様のスカイライン・クーペ)、
またBMW 3シリーズ・クーペなどが売られています。しかし率直に言って影が薄いという印象は拭えません。

その状況の中、ポンティアックは2年前から中型乗用車のG6と呼ばれる車種に2ドアクーペを導入し、その後パワー・リトラクタブル・
ハードトップ仕様が加わってこのあたりでも主として若い女性が乗っているのを結構良く見かけるようになりました。

今回のデトロイトショウではキャデラックが中型セダンCTSのクーペ版を出品しました。この車は単にドアの数を減らしただけでなく、
グリーンハウスの丈を縮めてボディー全体の造形も見直してあり、めずらしく事前に情報が全く漏れていなかったこともあって
メディアが一番注目した車のひとつとなりました。
またデザインの高い完成度はデザイン専門家の間でも評判がよく、予想される近い将来の発売が待ち遠しく感じられます。

クーペだけでなく、トラディショナルな3ボックスセダンの分野でも昨年秋発売された新型シボレー・マリブが2万ドルをちょっと
上回るリーズナブルな価格に加えて大きく改善された品質感が話題を呼んでいます。マリブと同じプラットフォームを使って
2年前から市場に出ているサターン・オーラもなかなか良い評判を得ており、またフォードが出品した近い将来のサブコンパクト
乗用車ヴァーヴ(Verve)や大型車リンカーンMKSなどを見ると、3年前にご報告した
トラックに押されてきた乗用車の巻き返しが着実に進行しているとの印象を受けました。

9. 北米初登場の車
すでに他のショウで発表済みながら、北米での公開は今回が始めての車がいくつかありました。

まずニッサンスカイラインGT-R。ショウの会場では大きな人だかりができていました。見たところ自動車専門誌を毎月欠かさず丹念に
読むだろうと思われる知識の豊富な人たちがその大半を占めていました。

BMW 1シリーズ・コンバーチブル。1シリーズは今年初めてアメリカで売り出されることになっており、3シリーズが大型化してV8まで
載るようになった今、アメリカのメディアは1970年代のBMW 2002tiiの再来という表現を使って1シリーズに大きな期待をもって見ています。
個人的な意見を言わせていただくと、話題の車としてはスタイリングが平凡すぎて華やかさに欠けています。1シリーズのデザインの批判を
した雑誌・新聞記事を見かけないのを不思議に思うのですが、皆さんはこの車をどう思われますか。

ミニ・クラブマン。現行のミニの人気はアメリカでもなかなかのもので、私の住むデトロイト郊外でも見かけることが珍しくありません。
価格が比較的安いことも人気の理由のひとつだと思われます。ただやはりボディーが小さすぎると感じる人もかなりの数いるようで、
ボディーを長くしてドアの数を増やしたクラブマンはこの不満を一部解消するのに役立つかもしれないと思います。

スマート・フォーツー。ヨーロッパで初登場して以来10年以上経つこの車ですが、親会社のダイムラーが今年アメリカにはじめて
導入することに決めました。
販売を手がけるのはアメリカ国内のレース活動で良く知られる(インディーカー、NASCAR、アメリカン・ルマンシリーズなど)有名な
ビジネスマン、ロジャー・ペンスキーです。1万ドル台という低価格と燃費の良さが売り物ですが、ミニでも小さすぎると感じるアメリカ人に
とって好燃費が購入理由のうちどのくらいの比重を占めるか、ガソリンの価格がこれからどのように変動するかがこの車の成功を左右する鍵と
思われます。ショウのスタンドではカットモデルを使って、超小型のボディーでも衝突時の安全性は確保されていることをアピールして
いました。

10. 中国からの参入
1970年台以降、アメリカ市場へのアジアからの参入はまず日本車が高い信頼性と低燃費をセールスポイントにして足場を築いて今日の
現地生産にまで発展し、韓国車がそれに続いて、当初低品質に起因するつまずきがあったもののいまではJDパワー社の品質調査で常に
上位を占めるにいたりました。

今年のデトロイトショウでは韓国のメーカーが日本車の足跡を辿るかのように、これまで手をつけていなかった高級車の分野に
進出する方針を明らかにしました。
ショウの出品車はヒュンダイ・ジェネシスと呼ばれるセダンで、4.6リッターV8エンジンを載せています。今年の夏には発売される
とのことで、V6を載せたベース車両の価格は3万ドル以下と予想されています。

この2国に続くと見られる中国はまず2年前のデトロイトショウにGeelyというメーカーが1台の車を持ち込みました。もちろん販売店もなく
販売の実績を持たないので、番外の参考出品ということで正規の会場の外、入口ロビーの一部にちょっとしたスペースを与えられたのですが、
今年のショウでは参加が合計4社に増えていました。
新聞の報告によればいずれもアメリカの市場を勉強するための参加ということなのですが、もちろん近い将来の市場参入の足がかりが
目的だと思います。

参加したのはGeely International Corporation, Changfeng Group, BYD Auto, ZX Auto Chinaの4社で、私を含む多くの人には事実上
全くなじみのない名前ばかりです。
展示は入り口ロビーのほか地下の第2会場のスペースを使っていました。

出品された車は中型セダン、クロスオーバータイプのSUV、スポーツクーペ、ゴルフカートか遊園地の乗り物を思わせる電気自動車、
それにハイブリッド車となかなかバラエティーに富んでいました。

日本、韓国に続く中国のアメリカ進出は、実際にはすでに水面下で始まっていると言えるでしょう。

今回はこれで失礼します。次回までどうぞお元気で。

(鈴木太郎記 2008年1月22日)



会場デトロイト・コボセンター(COBO Center)の正面入口。
正面ロビー、銅像はデトロイト出身の
ヘビー級チャンピオン、ジョー・ルイス


シボレー・ヴォルト プラグインハイブリッド

ハイブリッドを強調するトヨタのスタンド


フィスカー・カルマ プラグインハイブリッド

ホンダ・FCXクラリティー 燃料電池車


フェラーリ・F430 アルコール燃料仕様 フォード・エクスプローラー・アメリカ直噴2リッターターボ



2009年型 ダッジ・ラム

ダッジ・ラムの数多い小物入れを説明するディスプレーパネル



2009年型 フォード・F-150

ヒュンダイ・ジェネシス 4.6リッターV8



シボレー・コルベット ZR1

キャデラック・CTS クーペ



トヨタが2007年から参加しているNASCAR最高峰のNXTELカップ レーサー Changfeng リーブロ SUV


アメリカ便り・トップへ