1. | 快適なシート。私のイメージ上のベンチマークはシトロエンDS/ IDです。1955年に登場し、その革新的な設計と造形で世界を驚かせた車ですが、実は私にとって1970年代半ばにパリを訪れた時に後席に乗ったDSのタクシーがただ一度の経験です。しかしその布張りシートの絶妙な快適さは今も忘れられません。 |
2. | すぐれた燃費。私に強い印象を与えた好燃費の経験は1980年代後半に乗ったアウディ100の直噴ディーゼル車です。100は当時のアウディ車のうち高級車の位置付けでかなり大きなボディを持った車でしたが、特に燃費を意識せずに走った市街地とフリーウェイ両方を含む500マイルの走行で平均がガロン当たり40マイル、すなわちリッター当たり17キロを記録しました。仮にシェヴェットがこの位の燃費を達成していたらもっと長く乗っていただろうと思います。 |
3. | 乗り心地。低価格で乗り心地の良い車と言うと、シトロエン2CVとVWビートルが頭に浮かんできます。大径のタイヤと大きなストロークを持った軟らかいスプリングのサスペンションの組み合わせによる乗り心地は両車の長寿の秘訣のひとつだったのだろうと思います。ただ古い設計時点を反映して、両車とも角のある突起を乗り越える時のハーシュネスと呼ばれるゴツゴツした感触の遮断はあまり得意ではありませんでした。ハーシュネスの遮断を含む乗り心地のコントロールがうまく決まっていた車として私にとって特に印象深いのは90年代前半のオールズモビル88です。 |
4. | スタイリング。比較的安価で抜群に美しいスタイリングを持った車の例として私が推すのはカルマンギアクーペです。プアマンズポルシェと呼ばれることもあったこの車はベースとなったVWビートルよりは高価でしたが、さらに高価な同時代のポルシェ356と比べても私はデザインのバランスの良さでは劣らないと言うよりむしろ優れていると思います。 | 5. | 高品質感。品質感を決定する大切な要素と私が考えるのは先ずドライバーが常に操作するコントロール類、すなわちステアリング、ペダル類、ギアシフターなどの操作・作動感や剛性感、スイッチ類の触感・操作感・作動音などです。またいわゆる見栄え品質、特に室内トリムの製造精度・組付け精度・材質・触感も重要です。この分野は概ねコストと効果が正比例しますが、低コストの車には無縁のものかと言えば必ずしもそうでもありません。いま我が家の日常の足はサターン・アストラで、ヨーロッパのオペル・アストラを輸入し昨年から小型サターンとして売り出されている車ですが、近代ドイツデザインの典型と言える硬い鉛筆の芯をとがらせてきっちり描いたような印象のインストルメントパネル周りの品質感はこのクラスの車では一昔前には考えられなかったものです。 |
6. | 優れたコンセプト。抜きん出たコンセプトのために成功した量産車は数多くあります。よい例のひとつがご存知1960年に発売されたオリジナルのミニで、それまでの常識を覆すパッケージングと操縦性、それに加えて可愛らしくファンキーな外観があらゆる顧客層を惹きつけました。ほかの例としてはハイブリッドの動力源による高いエネルギー効率と低公害というコンセプトを市場に導入した1997年発売の初代トヨタ・プリウス、普通の家のガレージにおさまるサイズで伝統的なワゴンをはるかに上回る収容能力を持った1983年発売のクライスラー・ミニバンなど、皆それぞれ欠点を持っていたにも拘らずそれを補って余りある魅力が成功のカギとなりました。 | 7. | 私が初めてアメリカに来た1960年代半ばの典型的な低価格車といえば、当時大多数のユーザーが標準と考えていたフルサイズのシボレーやフォードのベースモデルでした。この頃は車のサイズの選択肢が今よりもはるかに少なく、50年代終わりに登場した中型の「コンパクトカー」も存在したのですが、主流は明らかにフルサイズでした。VWビートルが開拓した本格的な小型車の市場にアメリカの国産車が現れるのは70年代まで待たねばなりません。 |