マイレッジマラソンカー特集3
エンジン・シャシー製作編


エンジンとシャシー製作
カウル製作よりワンテンポ遅れましたが、並行してシャシーとエンジン製作をしました。当初の計画通りに行かなかった部分や、計画より過激になった部分などありますが、最終的には以下の様にまとまりました。

エンジン

1.ベースとして、スーパーカブの50ccエンジンを使用する。
クランクシャフト、ピストン、バルブ・カム系統はスタンダードの物を使用する。シリンダー、ヘッド、クランクケースは自作。コンロッドもアルミ製で長くしてピストンの抵抗も減らしました。キャブレターと点火時期、およびカム系は今回はスタンダードの設定でした。


2.ダブルイグニッション。
2点で点火し、希薄燃焼が可能になるようにしました。時間的余裕が無く、キャブレターを使用してメインジェットの調整だけにしました。


3.摩擦抵抗を減らす。
全ての可動部品は協和興産のご協力でマイクロロン処理を行いました。処理法は会員の金さんにお聞き下さい。ただし、ピストンリングはさすがに厳しく、この潤滑には外部のオイルタンクからオイルをコンロッドに滴下させました。40分で100ccが滴下するようになっており、クランクケースのオイルは、ケース底のドレインから抜いていました。コンロッドに当たって飛散したオイルは、ピストンリング、クランクシャフトのベアリング類を潤滑しており、スカベンジポンプの無い、ドライサンプと言えるでしょう。クランケケースにオイルが無いので、オイルリングはつけませんでした。ヘッド、バルブ系などはマイクロロン処理だけでオイル潤滑はしませんでした。駆動にコッグドベルトを使用することも考えましたが、今回は自転車用チェーンにマイクロロン処理をして、摩擦ロスの低減にかけることとしました。


4.吸気ロスの低減。
走行中はスロットルを全開にして吸入ロスを減らす計画でした。単気筒エンジンなので、クランクケースでの圧力変動ロスを減らすためブリーザーを太くし、オイルキャッチタンクは特大にしました。


5.軽量化。
クランクシャフトから後はスタンダードの自動クラッチを使い、後は直結でチェーン2段で後輪を駆動しました。クラッチは湿式をオイル無しで使うため、2硫化モリブデン・グリスを予め塗布しています。


シャシー、カウル
1.軽量化。
カウルはカーボンファイバー。主構造は50mm×25mmのアルミ角パイプ、前輪軸から前とロールバーはアルミ丸パイプを使用する。


2.カウルの形状。
全ての設計を、ドライバーが水平に寝て首を上げて前が見られる高さと幅から決めました。前輪を含むフルカウルにするか最後まで悩みましたが、コースに合わせてトレッド変更や左右非対称性を出せるように前輪カウルはボディのカウルと分離することにしました。ボディカウルは視覚的に前が重いので、カウルの後端は1点に絞らず、2次元的な終端としました。キャノピーはヘルメット幅+4cmで、首を回して左右を見ることが可能。バックミラーは前輪カウルの後端を切り抜いて装着しました。


3.ブレーキ系統。
マウンテンバイク用の油圧ディスクブレーキを使い、高度な加工精度で十分な信頼性と確実な制動力を得ました。レギュレーションに従ってマスターシリンダーとキャリパーは2組使いましたが、ステアリングの周辺にレバーを2組入れる余裕が無く、操作はペダルで足踏み式としました。


4.電気系統。
メインスイッチとセルスイッチのみ。速度計は自転車用のサイクルコンピュータ。ピットとの交信はヘッドセットを付けた携帯電話を使用しました。


5.地上高。
昨年の2cmは低すぎたので、今年は5cmとしました。


6.タイヤ。
定番のミシュランタイヤを使用しました。






01.クランクケース
製作途中のクランクケース、シリンダー、ヘッドのエンジン本体と、駆動チェーンの中間アイドラーシャフト。シリンダーはマイナス5度に設定され、エンジン全高を低くし、僅かなオイルでもピストンリングが潤滑できる効果を見込みました。


02.ヘッド
仮組みしたヘッド。バルブは小径の排気バルブを使用して高圧縮化のために、ピストンとのクリアランスを確保しました。吸気バルブとタペットがドライバーの頭の後ろ10cmにあるので騒音がひどく、エンジンがかかっているとドライバーとピットの交信ができず、これは対策が必要です。


03.エンジン組みあがり
予選前日の夕方、エンジンが組みあがった状況。TOM'S大岩社長と森本氏が「ようやく形になったな…」と話しているところ?この時点では写真を撮っている余裕が無く、貴重な記録写真です。


04.エンジン左
これは競技終了後のエンジン左側の写真。ヘッドの上に滴下オイルのタンク、クランクケースの下に排出したオイルが見える。シリンダーは鋳鉄なので、土曜日の雨で少し錆びています。クランクシャフトのメインベアリングはモンキー用のスペシャルパーツとして定評の有る、キタコーのベアリングを使用し、これもマイクロロン処理をしました。シール無しのベアリングなので、オイルをベアリングから噴出すことを心配しましたが、極太のブリーザ−パイプを通してエンジンは呼吸をしていた様です。


05.エンジン上
同じく競技後のエンジン上部からの撮影。左下は間に合わせで作った軽くて抵抗の少ないオイルキャッチタンク。


06.エンジン右
エンジン右側。リタイアの直接原因となった、クラッチとスプロケット。クラッチの働く回転数をもう少し高く、減速比をもう少し低速に設定していたら、S字の坂を登りきれた。?タラレバでは勝てませんね。


07.シャシー全体
シャシーが組みあがった状況。アルミ角パイプは50×25×2t。


08.ペダル
シャシー前端のペダル。ゴーカートと同じに右足がスロットル、左足がブレーキ。ブレーキは2操作系を満足するため、独立なペダルを同じに踏む構造。ドライバーの身長が変わると、ワイヤーストッパーの位置で調整する。マスターシリンダーはドライバーの頭の下にある。ペダルの下に、NACA型の空気取り入れ口が見える。


09.ステアリング
窮屈な空間なので、ドライバーは手首から先を左右に動かすだけでステアリングを操作します。金色のアルマイト処理したノブを握ります。アルミの角パイプ・シャシーを支点として、ステアリングロッドを左右に動かす構造。タイロッドとキングピンも見えます。メーターは100km/hまでの自転車用のスピードメーター、スイッチボックスはメインスイッチ、セルスイッチとパイロットランプ。


10.後輪
後輪まわり。スポーク越しにディスクブレーキのキャリパーが見えます。昨年までの機械式に比べて信頼性が格段に向上し、ブレーキテストは楽勝でした。


11.全体
車検中。全高を下げるため、ドライバーとエンジンを極端に接近させているにもかかわらず、全長は3.3mで、マイレッジカーの中では大型でした。後輪から後ろを切り捨てなかったのは、空気抵抗に対するこだわりからです。



特集1木型製作編へ  特集2カウル製作編へ  特集4まとめとリタイヤ編へ