鈴木 太郎のアメリカ便り No-4


S2000試乗記

SCCJの皆さんこんにちは。お元気でしょうか。ここミシガンでもようやく春たけなわ、
新緑の季節となりました。

今回の話題は最近乗る機会のあったホンダS2000です。この車は3年前の発売直後に
東京で短時間試乗したので今回が2度目でしたが、違う環境ということもあって印象が
かなり異なりました。
試乗の結果を評価レポート風にまとめると次のようになります。

ボディー
全体のこじんまりしたサイズはスポーツカーとしてちょうど良い。
現代のアメリカの一般路上で使うにはこれ以下ではちょっと小さすぎる。
室内は私の体型とサイズでも適度にタイトで、その感じが子供の頃夢に描いていた
"スポーツカーのコックピット"のイメージと一致する。
トランクの容量は大きくない。これで1~2泊以上の旅行をするにはそれなりの心構えと
用意が必要だが、この車のコンセプトの一面と割り切るべきか。
フロントエンドのデザインは見る角度によって意外と凄みがあってなかなか楽しい。
横から見たフードラインとフェンダーオープニング間の薄さは印象的。
またタイヤとホイールオープニングの間隔がタイヤの周にそって一定しているのは良い。
現代の標準からするとかなり立ったウインドシールドの良し悪しは好みの問題だが、
ガラス面積が小さく(軽量)、ワイパーブレードの長さが短くてすむという利点を
もたらしている。
軽量化と真中で折る必要から採用されたと思われるプラスティック製のリアウインドーは、
試乗車ではすでに透明度を失っていた。近代的なこの車で唯一時代遅れの部分である。
試乗車は2000年型だったが、最新モデルではガラスに変わっている。
公称6秒で折りたためる電動ソフトトップはその速さと便利さで秀逸。そんなものは手動で
十分という人には一度試してみることをお薦めする。畳んだトップにかぶせるトノーカバーは
盛り上がってあまり格好よくない。また使わないカバーはかさばってトランクの中で場所を
とりすぎる。

インテリア
ドライビングポジションはシートの前後位置とリクライニングの調節のみにもかかわらず
私の体型には問題なし。また、着座位置に対しステアリングとペダルのオフセットが無いのは良い。
ステアリングホイールは直径とリムのサイズがちょうどよい。
各種コントロールのレイアウトに神経が行き届いている。ギアシフトはもちろん、ターンシグナルと
ワイパーのスイッチレバー、ステアリングの左右に配置したオーディオと空調のコントロールは
ごく自然に手が届き、その使いやすさは多くの他車と比べ群を抜いている。
アルミの地肌そのままのシフトノブの外観はとても良いのだが、気温の下がった朝、素手で
操作するのに冷たい。最新型では部分的に皮巻きになってこの問題は解決されているようだが、
スリークな格好良さは失われた。
デジタル式の計器は一部ではあまり評判がよくないようだが、個人的には車の近代的な雰囲気に
よく合っていると思う。古典的なアナログ式よりむしろ見易いとも言える。
車内に時計の備えがないのはデザイナーがうっかり忘れたためか?無いのに気づいてその便利さを
再確認した。最新モデルではラジオの液晶表示に組み込まれている。
表面がピンと張った皮張りシートは良い形状で快適。横方向のサポートと乗り降りのしやすさの間の
適当な妥協点と思われる。
蓋つきの物入れが少ないのはよく指摘されているが、特にトップダウンで乗る場合に不便である。
冬季トップダウンで乗るとき膝に温風があたるよう設けられたエアアウトレットは非常に有効。

乗り心地とノイズ
試乗車での大問題は65マイル以上でウインドシールド上縁とソフトトップあたりから発生する
風切音で、パッセンジャーとの普通の会話が困難なレベルであった。おそらく試乗車単体の問題と
思われるが外から見ただけでは原因を見つけられなかった。
タイヤのトレッドが硬いせいもあってか、ミシガン特有の荒れた舗装面ではドタンバタンという
感じの乗り心地である。これに比べると例えばコルベットは感動的にスムーズで、地元育ち
ということがよく分かる。ホンダのエンジニアはこれほど悪い路面は考慮しなかったのでは
ないだろうか。また荒れた路面では、バンプステアのように車体後部が少しずつ横にゆれる。
最新型では足回りのチューニングに変更があったと聞いているが、このような苦情への
対応かもしれない。
荒れた路面を通過するとき車体後方からカンカンという一定振動数の音が聞こえる。
これはリアサスペンション取付け部あたりが共鳴するものと思われるが音の甲高さから察すると
かなり剛性が高いようだ。似たような音を以前に聞いたと思い、考えてみたら初期のポルシェ
カレラ4だった。
非常に高い車体全体の剛性感はいろいろなところで特筆されておりいまさら言うまでも無いが、
コルベットとともに現代のオープントップスポーツカーの基準を確立したと言える。
これに比べて最新のドイツ車はどうか、機会の有るときに試してみたい。

操縦安定性
一般の路上で常識的な乗り方をする限りハンドリングの特性はニュートラルである。
一度、突然現れた路上の障害物を避けるため急激なステアリング・インプットを与えたが、
何の破綻も無く思ったとおりの反応を示した。
交差点を曲がるときなど、少し早めに踏み込むとリミテッドスリップデフが効いて気持ちよく
曲がっていく。
3年前の試乗で一番気になったブレーキペダルの柔らかすぎる踏み心地は、この車では
かなり改善されていた。

動力系
この車の目玉の一つがレッドライン9000rpmの4気筒VTECエンジンだが、全く気楽にリミターが
効くまで回り続ける。ただ、以前に乗った初期のVTEC付1.8リッターインテグラのほうがもっと
軽やかに回ったような気がする。
VTECの低回転域(といっても6000rpm以下!)でのトルクは細く、対照的におとなしく静かな
走りとなる。
もうひとつの目玉である6速トランスミッションはシフトの軽さ、正確さ、ストロークの短さで
ほかの量産車と比較してずば抜けて優れており、或るアメリカの雑誌がこのトランスミッション
だけでこの車の存在する価値がある、と褒めたたえたほど。いったん慣れると病みつきになる。
ドライブトレインの総合ギア比はいかにもホンダらしく低い。ビートほどではないが
6速トップギアでエンジン1000回転あたり時速20マイルにもならない。ちなみにビートは
1000回転当たり時速12.5マイルとほとんど2輪並み。これに対し反対側の極端にあるコルベットは
1000回転当り時速42マイルで、両車の全く違う設計のアプローチが表れている。
この低いギア比を6段で分担しているので各ギア間のステップアップ比が小さくシンクロナイザーの
負担を軽くしている。

今回の試乗では4連休の週末を含んで合計5日間、400マイルを走って平均燃費はリッター当たりに
換算して13キロと前述の低いギア比を考えると予想以上の成績でした。
VTECの効果が出ているのでしょう。

この車は2人乗りオープントップのスポーツカーとして近い立場にあるマツダロードスターに
比べてより強い性能重視の考えで作られており、他の要素との妥協が少なくなっていると考えられます。
従って形態は似通っていてもこの2台は性格付けの差、価格帯の違いなどから明らかに違う市場の
セグメントを対象にしているので、直接の比較はどちらにとってもフェアではないと言えます。

昨年終わりにコルベットコンバーチブルのオーナーになったばかりの私ですが、S2000の持つ
独特のエンターテインメント性にはかなりの魅力を感じたというのが正直な感想です。

今回はこれで。次回もまたよろしくお願いします。
(この項終わり)
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