鈴木 太郎のアメリカ便り No-5


米国ガソリン価格事情

SCCJの皆さん、こんにちは。その後いかがお過ごしでしょうか。

この文を書いているのは、5月も終わりに近いメモリアルデーの週末です。この週末はモータースポーツファンとってはインディアナポリス500とF1モナコグランプリが重なる忙しいときですが、同時に冬の長いミシガンではこれから9月初めに学校の新学期が始まるまで続く夏のレクリエーションシーズンの開幕という重要な週末でもあります。

夏のレクリエーションと言えば、デトロイト近辺の多くの人達にとっては州の北の方にある別荘やキャンプ地へでかけて家族ぐるみで近くの湖での水泳、セーリングやウォータースキー、またゴルフやピクニックというのが典型的な楽しみ方となっています。

週の北の方のポピュラーな別荘地は、距離にするとデトロイトから普通300キロ前後、遠いところでは900キロくらいあるのですが(それだけ移動しても同じ州の中です)、大多数の人は自分の車で移動します。

話が脱線しますが、いわゆるレクリエーショナル・ビーヒクル、略してRVという呼び名はアメリカではキャンプ用の車(モーターホームとも呼ばれる)を指します。日本でRVと言うとSUVやミニバンなども含めたセダン・クーペ・コンバーチブル以外の総称なので、ちょっと使い方が違います。

今回の話題であるガソリンの価格は、実は季節と大いに関連があります。この週末は金曜の夜から土曜に掛けて、北へ向かうI-75号フリーウエイが渋滞するくらいに交通量が増えるためガソリンの需要量も飛躍的に増えるのですが、これからの夏のシーズンはガソリンが高くなるというのが通例となっているのです。

私がミシガンに戻ってからほぼ1年になりますが、毎日の通勤の途中で通り過ぎるいくつものガソリンスタンドに大きく表示をしてあるガソリンの値段を見比べるのが習慣となりました。その結果気付いたのが、以前このデトロイト近郊に住んでいたときより値段の変動が大きくなっているという事実です。

具体的には、レギュラーガソリンについて言うと昨年夏の転居のときの平均1リッター当たり40円の値段がその後2ヶ月くらいの間に55円に上がり、その後の33円を最低として何度か上下を繰り返してきました(1ドル=120円の換算)。ちなみにハイオクガソリンは普通レギュラーよりリッター当たりで5~6円高くなっており、ディーゼル用の軽油はハイオクガソリンと大体同じ値段です。

最近の一番の高値は昨年の初めでほぼ65円になったそうですが、この時は地域的に製油所の問題があって供給不足になったためと聞いています。上記の33円と比べて1年の間に上限と下限の間で2対1の比率で変動があったことになります。

平均的なアメリカのドライバーは1年に1万2千マイル(1万9千キロ)走ると言われています。仮に平均燃費1ガロン当たり15マイル (6.3km/L、現在ポピュラーなSUVの実力はこの位) の車で1年1万2千キロ走るとすると年間のガソリン消費量は800ガロン(3000リッター)、値段が1ガロン当たり50セント上がると1年で400ドル出費が増えるわけで、普通の家庭では夫婦1台ずつ持つのが当たり前ですから800ドルの上乗せとなります。

日本のいまの経済水準からすると、もしかしたら1年で1台当たり5万円近くの余計な出費は多数のドライバーにとってそれほど大きな問題にならないことかもしれません。多くのアメリカのドライバーにとってもそれはおそらく同じかと思います。ただ、経済的な余裕の少ない人でも自家用車以外の交通手段が事実上存在しないという環境なので、燃料の値上がりは決して無視できない社会問題です。

ご存知のようにアメリカの公共交通機関は日本とは全く事情が異なり、ニューヨークなど東海岸の一部の都市を除いては事実上存在しないため個人所有の車に頼らざるを得ません。また、デトロイトなどの都市でもバスのサービスがあることはあるのですが、数もルートも限られており、スケジュールも信用できないため非常に使いにくいというのが現状です。

鉄道やバスの大きな欠点として、ルートが固定されているために人々が住んだり働いたりする場所を選ぶ自由度が制限されるという事実があります。また、いまだに土地に余裕のあるアメリカでは西部開拓の時代から今にいたるまで人口の分布が流動的で、鉄道のように設備投資が大きく維持にもコストがかかるシステムは基本的に適していません。

デトロイトでも市の中心から郊外に向けて地下鉄を建設する案が検討された時期がありました。1970年代のことで、大気汚染の問題が注目を浴びマス・トランスポーテーションが進歩的な考えとされていた時代です。ただ、地下鉄は建設にもっとも費用がかかるシステムですから東京のような土地の制限が多く、人口密度の高い都市を除くと経済的にもペイしにくいのは明らかで、結局デトロイトの案も実現しませんでした。

ニューヨークの地下鉄は開業以来黒字になったことがないという事実も考えると、デトロイトの結論は当然だったと思います。

話を本題にもどして、ガソリンの値段はアメリカの庶民ひとりひとりにとって衣食住、通信などと並んで最も基本的な生活の関心事というのは間違いない事実です。その証拠に地元のラジオ番組で株式市場のニュースのように1日何回かその日のガソリン価格の状況を報告している局があります。

皆がガソリンの値段の上下に一喜一憂する一方で、第一回でお話ししたSUVをはじめとするトラックの人気という矛盾した事実があります。トラックはそのサイズと重量、空力効率などの理由で燃費は良くありません。従って、そんな車に乗っていながらガソリンの値段がリッター40円から50円になったといってどうして大騒ぎするのだという疑問が出ても当然です。

こうなると話のオチがつけにくいのですが、要するに1ガロン当たり2ドル(リッター63円)以下の現状では、過半数のアメリカ市民はブツブツ言いながらも何とかやりくりできるということなのだろうと思います。

次回はもっと楽しい話にしましょう。それではお元気で。

(この項終わり)

GasStation#1
典型的な値段の表示方法。このモービルのスタンドではレギュラー、中間グレード(Special)、ハイオク(Super Plus)の3段階のオクタン価のガソリンを売っている。上に書いてあるSelfとはセルフサービスの意味。今のアメリカはセルフサービスのスタンドが圧倒的に主流で、従業員が給油してくれるスタンドは探してもなかなか見つからないほど。
GasStation#2
セルフサービスのポンプの一例。このポンプでは3つのグレードのガソリンのほか、ディーゼル用の軽油も選べる。一番上の中央に給油量と金額が表示される。支払いはその左のスロットにクレジットカードを挿入すると自動的にチャージされ、領収書が印刷されて出てくる。また、オフィスまで10歩ほど歩いて行って現金で支払うことも可能。普通オフィスではオイルやウォッシャー液などのほかちょっとした食物や飲物も売っている。
GasStation#3
手前の2台のポンプがフルサービス用、うしろの2台がセルフサービス用。このスタンドではめずらしく昔ながらのフルサービスを行う。つまりスタンドの従業員がポンプを操作し、頼めば窓ガラスを拭いたりオイルのチェックもやってくれる。ただし燃料の値段はそれなりに高くなる。
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