鈴木 太郎のアメリカ便り No-6


Meadowbrook Historic Races 2002

今回の標題にあるMeadowbrookというのはデトロイトの北方40キロほど、ロチェスターという町にある1920年代に建てられた由緒ある大邸宅の名前です。今は博物館になっていますが、ここの庭園で毎年8月にクラシックカーのコンクールデレガンスが開かれます。ご存知カリフォルニア、ぺブルビーチのものと同じ形式で、コンクールの開かれる週末に近くのサーキットでヒストリックレースが開催されます。今日はその様子をお知らせしましょう。

レースを行うサーキットはWaterford Hillsといい、メドゥブルック・ホールからさらに北東に10キロほど行ったところに位置します。ここはもともと射撃クラブが使っていた土地ですが、1958年にSCCAのクラブイベントのためコースが建設されました。他の多くのロードレース用サーキットが大規模なプロのレースも主催しているのに比べ、ここは純粋なアマチュアレースに徹しているという点でユニークな存在となっています。

コースのレイアウトは添付の写真をご覧ください。時計方向廻りの全長2.4キロですから筑波よりちょっと長く、筑波を含む多くのサーキットと同様基本的に長円を真ん中から折り曲げたような形をしています。筑波と違いピット・パドックエリアが折り曲げた中心にあって、このためコースを横切ることなくパドックに出入りできます。また、コースの途中数箇所からパドックにもどれるアクセスが設けられて非常に合理的なレイアウトとなっています。また土地に高低差があって、写真で左上にあるその名もHilltop Turnというコーナーの外に立つとサーキット全体が見渡せます。

もと射撃場の名残りはSkeethouse TurnとかArchers Cornerといった名前にみられます。このサーキットのひとつの特徴はRが比較的大きい180度回るコーナーが3つもあって、行けども行けども回り続けるという具合でコース取りが難しい点です。しかし一番トリッキーなのはHilltop Turnで、ターン途中ちょうどクリッピングポイントのあたりが丘の頂点でそこからかなり急な下り、しかも意地悪なことに路面が逆に傾いたオフキャンバーとなっているのでスピードの調整とコース取りがカギとなります。

さて、今年のヒストリックレースにはおまけとしてクラシックスポーツカーのショウも含まれていて、駐車場の一部を囲ってオーナーたちが自慢の車を展示していました。特別参加として地元のニッサンテクニカルセンターが発表されたばかりの新型ニッサン350Z(フェアレディーZ)を出品しており、注目を集めていました。

オフィシャルプラクティスの始まる前にパドックを歩いてみました。いくつか自動車関係の企業がオーナーとなった「レーシングチーム」も参加していて、彼らは専用の大きなトレーラーを持ち込んだりクルーのために大掛かりな食事の準備などしていますが、大概のエントラントは個人の趣味として参加しているので非常に質素です。なかにはテントを張っているグループもいくつかあって明らかに寝泊りまで含めて週末をパドックで過ごしているようでした。

エントリーリストによると参加者は地元のミシガンと近くのオハイオ、カナダ・オンタリオからの人達が圧倒的に多く、そのほかはウィスコンシン、イリノイ、アイオワあたりから少数と言う具合です。車は種類ごとにグループに分けられていますが、ヒーリースプライトからコルベットまでの量産スポーツカー、ロータスコルチナやダットサン510などのセダン群、CanAmグループ7ローラを含むレーシングスポーツ、それにFormula 5000からVWのエンジンとサスペンションを流用したFormula Vまでのシングルシーターなどと結構バラエティーがありました。

一般観客のためのもうひとつの楽しみはTouring Sessionと称するフリー走行がプログラムに組み込まれていることで、5ドルの参加料を払って自分の車でサーキットを走れるよう30分の時間が設けられており、私も早速参加しました。参加料を払うとき自分の全責任を自分で持つという誓約書にサインするほかは特別の注意やインストラクションなど一切なし、ヘルメットも必要なしというカジュアルさです。ただフリー走行とはいってもペースカーが入りしかも参加台数が多かったのでコースは渋滞して、セカンドギア以上に入れられないという状態でした。それでも私はここを走るのは初めてだったので、良い経験となりました。

写真をいくつか添付しましたので当日の雰囲気を感じとっていただければ幸いです。ペブルビーチと比べると、ここメドゥブルックのレースははるかに小規模で庶民的です。この日は湿度が低く、日なたでは暑く日陰では涼しい風を感じるという理想的な天候の下、そこそこの数の観客がとてものんびりした雰囲気で草の根レベルのモータースポーツを楽しんでいました。

それでは次回もまたよろしく。お元気で夏を乗り切ってください。

(この項終わり)
ウォーターフォード・ヒルズのコースレイアウト
注目を集める新型Z
左の赤い356ポルシェは少数作られたカルマン製のハードトップ。
コースインを待つ2台のオリジナル・エリート
これはめずらしい65年型Yenko Stinger。シボレーコルベアをDon Yenkoというチューナーが改造して少数市販された。当時のSCCAレースで結構活躍した。
リラックスしたレースオフィシャル達
ロータスセブン・シリーズ4も非常にめずらしい。
オリジナルのマスタングはポピュラーな車種のひとつ。左の赤いファーストバック(今では死語となった)はShelby GT350という特別仕様。
ヒストリックレースに出場しているセブンはすべてケーターハムではなく、ロータス製。
写っているご婦人はドライバーの奥方。このボルボは見かけによらずいったんコースに出ると速かった。
60年代のFormula Vの一例。VWビートルのエンジン・トランスミッションとフロントサスペンションを流用することが義務付けられていた。
ヒルトップ・コーナーに向かって上ってくる。先頭は#10に写っているVolvo 544。
フリー走行中のドライバーズシートから。
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