Route66ドライヴ記(3) キングマン 〜 グランド・キャニオン

5月29日(木)
 今日はセリグマンと言う、予ねてから訪問することを楽しみにしている町へ
まず行きます。
 キングマンから東へ向かうルートは旧Route66とInterstate40では相当離れ
たところを走っています。
 Interstate40は真っ直ぐ東へ向かっていますが、旧Route66は北へ大きく迂
回してグランド・キャニオンへの上り口であるウイリアムズで両方の道路は落
ち合います。
 私達は旧Route66をハックベリー経由でセリグマンに向かって走っています。
 この道路はハイウエイではなく一般道ですが、昨日は走ったオートマンへ行
く道路に比べると各段に上等です。
 この道路は地図で見るとScenic Roadと書いてあるので、景色の良い観光道
路として特別に整備をしているようです。
片側一車線ですが道路幅も広く、ミッシュランを履いたLincoln Town Car
は最新のアスファルト舗装の上を気持ちよく走ります。
 観光道路もウイークデイは行き交う車もほとんど無いので、私はここで運転
を家内に替わってもらい、しばらく休息することにしました。

  約2時間ほどで、人口が約500人の期待の町セリグマンに到着しました。
 私達がこの町に来たかった訳は、昨年NHKの地球に乾杯「ノスタルジック・
ハイウエイ ルート66をゆく」に出てきた町で、この町のメキシコ系アメリカ人の
デルカディーヨ兄弟が、Route66の復活運動を今から十数年前に最初に始めた
人達だったからです。
 私達はこの兄弟のところへは是非行ってみたいと思っていました。
 道路がセリグマンの街路に入ると道幅が急に広がり片側二車線になりました。
 街路の中程にピンク色をした1959年型(多分)のエドセル・フォードが
停めてある一軒のお土産物屋にまず入りました。

 
入り口ではマリリン・モンローが私達を迎えてくれました。
 お店の中には、それこそどっさりRoute66グッズがならべてあり嬉しくなり
ました。
 この店のおやじさんが道路に面したテラスでギターの弾きなからビル・トレ
ーダーの“A Fool Such As I"を観光客向けに唄っていましたが、観光客らしき
人達は私達の他にはいませんでした。
 歌が終わるとおやじさんが話し掛けてきました。
 「日本から来たのかい」
 「そうだよ、私達は日本から来たよ」
 「そうかい、 遠いところからよく来たなあ−、日本は熱いところかい」
 「日本の夏は暑いところもあるし、それほど暑くないところもあるよ」
 「ヴァケーショウンで来たのかい」
 「ウーン 昨年、私は40年以上働いた会社をリタイアーした。今年66歳
になったので記念にRoute66をドライヴしているのだよ」
 「40年以上も働いたって、凄いなあ、ここでは働きたくてもそんなに長く
働く仕事がないよ、日本は産業が発展している国だろ、俺の使っているエレキ
ギターも、この電子ピアノもみんな日本製さ、まあ、ゆっくりしていきなさい」
 と言って、再びギターを取り上げるとプレスリーの"Can't Help Fallin'in
Love"を唄いだした。
 この店を出るときにおかみさんが私に"OFFICIAL_ROUTE66_LICENSE"と
書かれた綺麗なカードをプレゼントしてくれた。これはとても良い記念になる
ので嬉しかった。
次にお目当てのデルカディーヨ兄弟の店をさがした。
 弟で床屋をやっているアンジェロは昼食で自宅へ帰っていて居なかったので、
兄貴のホアンのやっている店へ行き、ホットドックとコークを注文した。
 この兄貴は84歳と言っていたが、冗談の達者な面白いじいさんで、まず戸
を開けようとしたが、ドアーの取っ手がドアーの右と左の両方に付いていたり、
私の家内がこのじいさんに突然マスタードをひっかけられたので「ギャー」と
言って驚いたが、これはからし色をした紐がマスタード容器から飛び出してき
たものだったのです。
 この街は私達の他に白人の旅行者を数組見かけた程度の、極めてのんびりし
た風情で、店のすぐ後ろをサンタフェ鉄道の貨物車が通り過ぎて行った。



セリグマンを後にしてウイリアムズからグランド・キャニオンに向かった私
達は、ヴァレと言う町でこの度の旅行で最も危険な目に会うことになりました。
 午前中は晴れて良い天気でした。
午後から雲が出て来て少し時雨れてきたが、穏やかな午後のドライヴを楽し
んでいた時のことです。
 赤い日産のピックアップが私達の前を走っていました。ポツポツと雨がフロ
ントグラスにかかってきました。
 何か雲行きが悪いなと思った時です。
突然強い風が右手から吹き付けてきて、赤茶色した土砂がボディーに当たる
音がしたと思うと、直ぐまた、一段と強い突風が右から吹き付けてきて、前を
走っていたピックアップの荷台に架けてあったデタッチャブルの屋根が風に吹
かれて外れ、左側の上空へ舞い上がって飛んでいってしまいました。
 わっつひどいな!と思った次の瞬間、より強い強風に巻き上げられた赤茶色
した土砂によって周囲が全く見え無くなってしまったのです。
 私は為す術を無くしました。ブレーキを踏めば追突される危険があるので、
前のピックアップが急停車しなことを念じながら、視界ゼロのフロントガラス
を見つめることしか出来ませんでした。
 幸い数秒にして少しずつ視界が回復してきましたので、見ると前のピックアップが
徐々に右へ寄りつつ停車しようとしているところでした。
 この車を避けて、数分走ると強い風も次第に収まり、再び穏やかな午後に戻
りました。
 一体あれは何だ、ただの強い風だったのか?
それとも小さな竜巻だったのか?
いまだにあれが何だったのか分かりません。
 アメリカの中西部では5月から10月の間はストームとトロネードの季節で
すから、もしかすると小さな竜巻だったのかも知れません。
この辺ではこのようなことが頻繁に起こっていることなのか、それとも珍し
い出来事なのか、いずれにしてもアリゾナの自然環境の恐ろしさを身をもって
体験しました。
私達としては事故に巻き込まれなかった幸運をただただ感謝するのみでした。
 この日はグランド・キャニオン国立公園のロッジに1泊してサンセット心行
くまで見物しました。